神楽に魅せられて・・・小川夏樹さん(55)
1人3役
神楽(かぐら)とは、神様に奉納するために奏でられる歌舞といわれます。石渡地区では120年以上も前から石渡八幡神社で奉納されている伝統芸能です。神楽は主に獅子舞、横笛、太鼓で構成され、それぞれ担当する人が演じますが、1人で3つの役を演じることができるのは難しく、約30人いる石渡神楽保存会のなかでも、できるのは2人だけ。そのうちの1人が小川夏樹さん(3常会)です。神楽保存会長の広沢幸一さん(3常会)は「前夜祭の巡行などでどうしても交代しなければならない時が生まれます。そんな時、3つの役割ができる小川さんは貴重な戦力です」と話しています。
獅子舞、笛、太鼓。1人で3役を演じる小川夏樹さんです
出 合 い
長野市に本社のある建設会社に就職、結婚した31歳の時に石渡に移り住みました。長女が小学5年になり奥さんが育成会長に。地域との交流が生まれました。それが縁で小川さんにも神楽保存会への誘いの声が掛かりました。43歳の時です。けいこを見ました。「楽しそう。やってみよう」。神楽との出合いでした。
練 習
前夜祭を間近に控え、神楽の特訓が始まりました。小川さん(手前)は獅子舞のけいこです
月2回の練習日には積極的に参加しました。かなり重い獅子舞の頭のなかでは横棒をくわえ、中腰でさらに内股で舞うのでかなり疲れます。終われば汗びっしょりになります。獅子舞で叩く太鼓も、舞いはなくても床を叩いて何度も何度も練習しました。
笛はとくに苦労したといいます。子どものころからやっていれば上手くなるといわれます。でも小川さんが始めたのは40代。「きれいな音が出なくて…。上手い人の音色に聞きほれました」。
とにかく練習しました。時には運動公園や千曲川河川敷に行って車の中での練習です。「初めてきれいな音が出たときは本当にうれしかった」と話します。
太鼓を叩く小川さん。真剣です。獅子はそのリズムに合わせて舞いました
笛は、人知れず車の中でずいぶん練習しました
特訓のあとの慰労会。小川さん(中央)はまだ緊張が続いているようです。表情が硬い
前夜祭(宵祭り)
前夜祭当夜です。小川さんの吹く笛のきれいな音色で、獅子舞は盛り上がりました
小川さんは、道中ばやしに合わせて区内を巡行する神楽屋台の太鼓を叩き続けました。歩きながら合わせるのが苦労です
石渡神楽保存会の最大のイベントは、毎年10月に2日間かけて行われる秋祭りのうちの前夜祭です。提灯で飾った神楽屋台が2台。東と西のコースに分かれて大きな提灯を掲げて、笛と太鼓で道中ばやしを奏でながら区内を巡行します。途中、希望のあった家では家内安全などを祈念して獅子舞を舞います。太鼓を叩きながら、笛を吹きながら、家々で獅子舞を舞いながらの巡行はかなり疲れます。担当を交代せざるを得なくなります。そんな時に3つの役ができる小川さんは貴重な担い手になります。 実際に今年10月12日の前夜祭では、小川さんは神楽屋台に寄り添って太鼓を叩いたり、そばで笛を吹いたり、家のなかでは舞いを舞ったり・・・。大活躍でした。「舞いを舞った後、家の人に『良かったよ』『ありがとう』と言われたときは疲れなど吹っ飛んじゃいますね、うれしくて」と話します。
「家内安全」を祈念して獅子舞を舞い終わってのあいさつ。「ありがとう」「ご苦労さま」の言葉がとてもうれしいとか
やりがいと誇り
自分の性格を地味でアピール力が足りないと思っています。でも、獅子舞や笛などで拍手をもらったりすると気持ちが盛り上がる。だから神楽はやりがいがあり、人一倍素晴らしい芸能だと思っています。「演技に対しての拍手や声援のうれしさと、伝統芸能を自分だって支えているんだという誇り。石渡にいる限り、神楽は続けますよ」ときっぱり。
「石渡にいる限り」とは? 小川さんは小諸市の出身です。実家には高齢の母親が一人で暮らしいます。心配です。将来はどうするか、いまの段階では分かりません。
「いまは、神楽を続けることで伝統芸能を守り、それを若い人に伝えていけたらと思っています」と小川さんは話してくれました。
神楽の楽しさを知ってもらおうと開いた体験会。伝統芸能を若い人に伝えたいと、子どもたちに熱心に笛の吹き方を教えていました