退職

 71歳を迎えたのを機に、5年間働いた宿直アルバイトを辞めました。心に障害を持つ人が、社会との関係を持ち続けるため、街中の住宅を借りて数人で共同生活をしています。グループホームと呼んでいます。1週間に4日、そのホームの宿直をしていました。夜9時から翌朝の7時までが勤務時間です。私の勤めていたホームには4人が生活しており、入浴の介助や就寝へ誘導、夜間の見守りなどが仕事です。

 当初はお互いが分かり合えず大変なことも多かったのですが、やがて心の通い合いのようなことができると、穏やかな関係になりました。といいましても、時には激しく大声を出したり、暴れたりはしましたが。でも、会話はできなくても心は通じることを発見しました。眠れない時にはハグしたり、子守唄代わりに下手な演歌を歌ったり、私が抱えている悩み事をやさしく話したり・・・。やがてホームに出勤すると笑顔で迎えてくれるようになりました。帰る時は腕をつかんで帰るなとの意思表示をしてくれるようにもなりました。必要とされるのはうれしいものです。

 しかし、次第に疲れを感じるようになってきました。帰宅してもすぐ眠れるわけではなく、区などの会議では居眠りをするようになりました。もう限界かなと思い退職したわけです。宿直がなくなったいま、とても解放された気分で、テレビを見たり本を読んだり、秋の夜長を楽しんでいます。でも、また働くつもりです。ただし働き口が見つかればですが。中学時代の恩師の言葉が思い出されます。「働くということは、傍(はた)を楽にすること。傍とは自分のまわりだけでなく世の中に役立つこと」。いい言葉だと思います。

【石渡区長:水越 渉】